NIKEのバスケットボールシューズの進化の歴史を辿る【その3 ~2001年から2006年~】

NIKEのバスケットボールシューズの進化の歴史を辿る【その3 ~2001年から2006年~】

撮影:筆者

こんにちは。壮年留学生です。

ナイキバスケットボールの歴史を辿るシリーズも今回で3回目を迎えます。今回はコービー、レブロンを始めとする次世代のスーパースターたちが躍動する2000年代に本格的に突入していきます。

AIR HYPERFLIGHT (2001)

画像引用元:news.nike.com

【エアハイパーフライトの主な特徴】

  • 先進的なビジュアルと軽量性で当時の市場を驚かせた
  • ワンピースアッパーの中足部から足首部にかけて樹脂製補強パーツ
  • コンセプトにナイキ創設メンバー、ビルバウワーマンの魂が込められている

エナメル調を全面にあしらったアッパーとその鮮やかなカラーリングで当時のバッシュ市場を驚かせたエアハイパーフライトです。

当時の市場を震撼させた超軽量設計

懐かしさ満載の全面エナメルアッパー
画像引用元:news.nike.com

このシューズはガードプレーヤー向けに開発された、当時の超軽量バスケットボールシューズです。パーツ数を少なく抑え、ソールを薄くすることで超軽量を実現しています。

アッパーの補強はシューズの両側面の中足部から足首に伸びる樹脂パーツのみです。

クッショニングはヒールズームエアをセット。今だったら前足部に搭載されそうなものですが、この当時はヒールズームエアが一般的でした。

シューズに宿るバウワーマンの魂

デザイナーは現在まで活躍し続けている次世代のスーパーデザイナー、エリックエイバー氏が担当。コンセプトにはナイキ創業メンバーの一人であるビルバウワーマンのシューズに対する美学が反映されています。

バウワーマンはナイキ創設期の製品企画担当と言える人物です。オレゴン大学陸上部の監督の経験を活かし、ランニングシューズの開発に従事しました。コルテッツやワッフルソールの生みの親として知られています。

1999年12月に彼が他界する以前、エイバーはバウワーマンに製品のデザインについて何度か相談することがありました。その際、バウワーマンは決まってこう言ったそうです。

「もう少し軽くかるくならないかね?」

何を見せても彼は更なる軽量化を求めました。

バウワーマンが他界した後、エイバーは彼とのやりとりを思い出していました。

もし彼がバスケットボールシューズを創ったらどんなものになるのか。その疑問がエアウルトラフライトのコンセプトとなっています。

変態的パスでおなじみのジェイソンウイリアムスが着用
画像引用元:solecollector.com

中学時代に履いていた友人によると、耐久性はあまり高くないとのこと。

ある日、エアハイパーフライトを履いてプレーしている友人のふくらはぎの内側が傷だらけになっていました。どうしたのか聞いてみると、履いている内に足首部の補強パーツの先端がアッパーから剥がれてきてしまい、走る度に自分のふくらはぎを突き刺していたらしいです。笑

ZOOM GENERATION (2003)

画像引用元:news.nike.com

【ズームジェネレーションの主な特徴】

  • レブロンのオーダーである「快適性」を追求したバスケットボールシューズ
  • ヒールエア、フォアズームエアとカーボンファイバープレートをミッドソールに搭載
  • 本人のポジションレスなプレーとパーソナリティから影響を受けたデザイン

続いては2020年のシーズンからNBA18年目を迎えるレブロンジェームズの初シグネイチャーモデル、ズームジェネレーションを解説していきます。

NBA17年目を迎えながら未だにリーグを先導するキング

レブロンジェームズといえば2003年にドラフト1位指名でNBAにデビューして以降、リーグ制覇3回、MVP4回、オールスター選出16回など、輝かしい成績を収め続けている地球最強のバスケットボールプレーヤーの一人です。高卒でデビューして2020年で36歳を迎えますが、そのプレーは未だに衰えません

リーグ得点王に輝いた(2008年)こともありましたが、パワー、スピード、テクニックの全てをトップレベルで持ち合わせるオールラウンドなプレーがここ数年の彼のスタイルです。

19-20シーズンの中断以前のスタッツを見ると、1試合平均得点25.7、リバウンド7.9、アシスト10.6という見事なもの。アシストに関してはリーグトップの数字でした。

20代のイケイケの選手を差し置き、彼が未だにリーグのキングである理由が数字に表れています。

何よりも快適性をシューズに求めたレブロン

ズームジェネレーションの開発にあたってのレブロンからの要望は、軽量性でもクッショニングでもサポート性能でもなく、「快適なシューズ」というもの。

これには担当デザイナーのアーロンクーパーも拍子抜けしたそうな。しかし同時に、とても面白い試みになると確信。レブロンに今までで最も快適なバスケットボールシューズを提案することを約束し、その場を後にしたそうです。

デザインはレブロンのプレースタイルとパーソナリティを知ることから始まりました。

彼のサイズ、身体能力、そしてそれに似合わないスピードを駆使したプレースタイルはこれまで提案してきたフライト、アップテンポ、フォースのどの枠にも当てはめることができなかったそうです。

また、レブロンがバスケに臨む姿勢やメンタルの強さから、デザインチームは彼を現代のソルジャー(兵士)と捉えました。

結果、上記のような屈強なイメージと、本人が望む快適性がシューズのデザインに反映されることになりました。

画像引用元:news.nike.com

クッションセットアップは前足部にズームエア、ヒールにエアを搭載。ミッドソールにはカーボンファイバープレートを搭載し、反発力を増幅します。

アッパーはレザーで構成。アッパー内側にはスフィアテクノロジーと呼ばれる吸湿速乾素材が全面に張り巡らされています。これは無数の穴が開いたパディング素材で、レブロンが望む快適性を高めています。

アッパーのデザインは軍隊の兵士が着用するフィールドブーツや、軍隊で使用されるタフな4輪駆動車からインスパイアされています。

本人がルーキー時のオールスターウィークエンドで着用したカラーリングがこちら。正にフィールドブーツのような見た目のバッシュでダンクを決めまくりました。
撮影:筆者

アーロンクーパーが完成したシューズを持っていくと、レブロンはすぐに靴紐を結び、その場で4~5回ジャンプしました。

そして一言、「これ、今までで一番快適だわ。」

デザインチームがレブロンの要望を見事にかなえた瞬間でした。

ホームカラーは室内でのバスケに使用、右側は普段着用で着用しています。
撮影:筆者

私もこのシューズが大好きでして、復刻時に三色入手しています。白基調のホームカラーは新宿のアトモスで並んで購入。アウェイとオールスターはSNKRSだったと思います。

バスケで着用した感想としては確かに快適。特にヒールのクッショニングはふかふかです。アッパーの天然皮革はソフトで足馴染みがいい一方で耐久性はそこまで良くなさそうな印象。

サポートやホールド感はそんなに良くないです。両足ザムストを着用して履いていたので問題ありませんでしたが、サポーターなしだと頼りないかんじがしました。

トラクションは中の上といったところでしょうか。数回使ってアウトソールの細かい溝が消えてきたところでしっかりとグリップし始めます。

サイズについては若干トゥボックスが広いので、私はハーフサイズダウンで購入しました。ウィートのオールスターカラーについてはよく買うマイサイズにしているのですが、つま先周りに大きな空間があるのを感じます。

参考にしていただけましたら幸いです。

ZOOM ULTRAFLIGHT (2003)

画像引用元:news.nike.com

【ズームウルトラフライトの主な特徴】

  • フルレングスズームエアかつヒールには追加のズームエアを配したダブルスタック構造
  • TPU樹脂製のシャーシをシューズの大部分に使用することで安定性と軽量性を両立
  • ペイトン、パーカーの他、NBAデビュー前のレブロンも着用

エアハイパーフライトで培ったコンセプトをブラッシュアップ

ズームウルトラフライトの完成度は高く、海外のバッシュレビューサイトで軒並み高評価を得ており、復刻を望む声が絶えません

くるぶしあたりからつま先までを半透明のTPUシャーシで構成し、その他の部分を天然皮革で覆うという独創的な工法が特徴です。樹脂製のパーツで安定性を確保する技法は先に紹介したエアハイパーフライトの正当な進化版と言えるのではないでしょうか。

伝統的な素材である天然皮革と先進技術を用いたTPUシャーシで構成されたアッパーが特徴的
画像引用元:news.nike.com

伝統的な皮革とテクニカルな先進素材の融合

デザインの参考に用いられたのは未発表の陸上競技用スパイク、スーパーカーのエンジンを覆うハッチ、そしてウインタースポーツ向けのヘルメットです。いずれも透明な素材を使用し、内部の構造が視認できるデザインでした。

デザイナーのアーロンクーパーは透けて見える内部は機能的であることを想起させるものでないといけないとし、ライニングを担うソックス状のブーティーの質感にもこだわったのだとか。

TPUシャーシはカラーリングの自由度も高かった
画像引用元:news.nike.com

アッパーの大部分を占めるTPUシャーシがサポートを担当している為、レザーのパーツつま先から甲を覆うパネルのみ。そこに薄く成形されたラバーアウトソールが張り付けられています。

クッショニングはフルレングスズームエアと、ヒールには更にズームエアを追加したダブルスタック構造。アッパーといい非常に履いてみたくなるセットアップです。

ゲイリーペイトン他、バックコートのプレーヤーに愛されました
画像引用元:solecollector.com

AIR ZOOM HUARACHE 2K4 (2004)

画像引用元:news.nike.com

【エアズームハラチ2k4の主な特徴】

  • ヒールズームエアと前足部は母指球部にズームエア搭載
  • 多くのNBAプレーヤーに着用された傑作
  • 原点回帰を目指した2004年版ハラチシステム搭載バスケットボールシューズ

原点回帰を目指した高機能バスケットボールシューズ

ナイキは時に奇抜に、大胆にバスケットボールシューズの常識を壊し続けてきました。

2020年現在のバスケットボールシューズは間違いなく過去の技術革新があってこそのものですが、当時のエリックエイバーはイノベーションのみを追い続けることに懐疑的だったようです。

例えばフォームポジットテクノロジーを搭載したフォームポジットワンは実験的プロダクト(前回の記事参照)で、必要な機能を求めるというよりは、革新的なものを生み出すことが先行していました。

上記を受け、エアズームハラチ2k4のコンセプトは

「原点に戻り、着用者の目的に沿った真のパフォーマンスバスケットボールシューズをつくる」

となります。

原点回帰を表現したシューズ側面のスウッシュ。グリップ力の高いソールパターンも高い評価を受けています。
画像引用元:news.nike.com

デザインには伝統的要素を取り入れている

設計にあたっては、コービーブライアントのようなポジションレスで現代的プレーヤーが着用することをイメージ。そしてモダンな要素と過去の要素をミックスしたデザインにすることを根幹に据えています。

取られた手法は、過去の名作のDNAをエアズームハラチ2k4に封じ込めるというもの。ブレザーにはじまりAF1、AJ11、ペニー4等の要素を取り入れたらしいです。それが表現されたCMがこちら。

当時、同シューズの特設サイトがあったのですが、相当つくりが凝っていました。上記動画で登場したシューズがどのようにハラチ2k4に影響しているかを解説してくれていました。(正直ブレザーとかAF1とかAJ11の要素がどのあたりに込められているのか今となっては全然わかりません)

また、エイバーはロゴについての想いも語っています。

ハラチ2k4発表以前はナイキのロゴが異常に大きかったり、反転していたり、かと思えばとても小さくあしらわれたシューズが多かったそうです。小さいナイキロゴのモデルは以前の記事で紹介したものにも多く見られました。

そのトレンドに対してハラチ2k4ではトラディショナルなナイキのシューズのようなベーシックなスウッシュがアッパーの側面に配されることになりました。

ルーキーシーズンのドワイトハワードを飛び越えてダンクを決めるコービー。
ハラチ2k4はコービーのシグネイチャーモデルとして発売される予定だったという噂も。ちょうどスキャンダルと被ってしまい延期になってしまったのだとか。
画像引用元:nicekicks.com

機能面ではその名の通り、ハラチシステムと、ファイロンミッドソールには前後分割ズームエア(前足部は母指球部分)が搭載されています。上位モデルに搭載されるカーボンファイバープレートもソールに確認できます。

真のパフォーマンスシューズとして誕生したエアズームハラチ2k4は多くのNBA選手に着用されました。また、一般のプレーヤーにも非常に人気で、これまでに何度か復刻されています。

AIR MAX 360 BASKETBALL (2006)

画像引用元:news.nike.com

【エアマックス360バスケットボールの主な特徴】

  • ミッドソールにフォーム素材を使用せず、全面がエアになった初めてのエアマックス
  • サイズのあるプレーヤー向けの過去最大容量のエアクッショニング
  • バスケットボールの動きに合わせて横方向の安定性を強化

ビジブルエア誕生19年目の進化

1988年のエアマックス1に搭載されたビジブルエアは時と共にそのサイズを大きくしていきました。その歴史において、2006年に誕生したエアマックス360はそれまでのモデルから飛躍的に進化したエアマックスとして知られています。

これまで、スニーカーにエアを搭載するには、エアを的確な位置に固定し、アッパーと結合するためのミッドソール素材、例えばポリウレタンやファイロンが必要不可欠でした。

しかし、このエアマックス360ではエアの製造工程を見直し、エアバッグの上下の凹凸をなめらかに仕上げることに成功。これによってファイロンやポリウレタンを使うことなく、エアバッグを直接アッパーに結合することができるようになりました。

また、経年劣化しやすいフォーム状のミッドソールを省略することで、より耐久性の高いエアマックスをつくることができています

今でこそヴェイパーマックス等で当たり前に見られる構造ですが、発売当時はかなりのインパクトがありました。

こちらはランニング用のエアマックス360
画像引用元:news.nike.com

バスケットボール用にチューンアップされたエアマックス360

足首部のストラップが特徴的
画像引用元:news.nike.com

2006年当時の革新的エアマックスをバスケットボール向けに調整したものがこのエアマックス360バスケットボールです。

ランニング用のものにバスケットボール特有の動きである横の動きやジャンプの動作をサポートする安定性を加えています。

機能面はインサイドプレーヤーに特化しており、ガードプレーヤーの着用している様子はほとんど見たことがありません。

当時のNBAを代表するインサイドプレーヤーの一人であるアマレスタウドマイヤーが着用していたことで有名
画像引用元:bleacherreport.com

まとめ 現在もプレーヤー愛されるハイパフォーマンスシューズの数々

この年代になってくると今でも普通に競技用として使用されているバッシュが登場してきました。今回紹介したシューズの内の半数以上は復刻発売されており、19-20のNBAシーズン着用されていたものも含まれています。

無数の新商品が生まれては消えていく市場において、10年以上前に発売されたモデルが未だに愛され、復刻を望まれる状況に当時のデザインチームの努力が感じられます。

次回は2008年のフライワイヤーを使用したハイパーダンクの登場と、コービー4から始まるローカットバッシュブームについて触れていこうと思います (公開済み) 。

最後までお読みいただいた皆様、ありがとうございました。