NIKEのバスケットボールシューズの進化の歴史を辿る【その4(最終回) ~フライワイヤーとローカットシューズの隆盛~】
撮影:筆者
こんにちは。壮年留学生です。
ナイキのバスケットボールシューズの歴史を辿るシリーズも今回で4回目となり、最終回を迎えることになりました。
最後となる今回は2008年発表の初代ハイパーダンクから2012年発売のハイパーダンク2012までについて書いていきます。何故2020年までの最新シューズを紹介しないのかと申しますと、NIKE NEWS の元記事が2012年までを解説したものだからです。
2013年以降のシューズについては私の独断で選んでもいいかなとも考えましたが、公式が発表している情報というところに意味があると思いますので、この枠での解説は控えさせていただくことにします。
前回までの記事はこちらからどうぞ。
HYPERDUNK (2008)
【ハイパーダンク(2008)の主な特徴】
- フライワイヤーを初搭載したバスケットボールシューズ
- ヒールズームエアに加え、前足部に当時の最新クッションフォーム、ルナロンを搭載。
- バックトゥザフューチャー2に登場した未来のスニーカー、エアマグのデザインを踏襲
現在も進化を続けるフライワイヤーが採用された初のバスケットボールシューズ
ハイパーダンクは2008年に初代が誕生し、その後10年にわたり多くのプレーヤーに愛されたシリーズです。生誕10年の節目となる2018年を最後にシリーズは終了。2019年にはその流れを汲むモデルとしてアルファダンクという新作が登場しましたが、これまでのハイパーダンクと比べると異なるコンセプトで開発されている印象。
ということでシリーズが終了した現在もデッドストックを探すプレーヤーが絶えないシリーズです。
初代ハイパーダンクは2008年開催の北京五輪に合わせたプロモーションで話題を呼びます。各国の代表ユニフォームに合わせた専用カラーが発売され、ナイキの力の入れようが感じられました。
カラーリングだけではなく、その機能面も相当に気合が入っていました。特筆すべきはバスケットボールシューズに初搭載となったフライワイヤーです。
フライワイヤーは、レインボーブリッジのような吊り橋からインスパイアされた高耐久ナイロン繊維を指します。現在はシューレースホールと連動する形でシューズに取り付けられていることが多いフライワイヤーですが、当時は薄い樹脂製のパネルの内部に埋め込んで使用されています。
軽量でありながら強靭なサポート力をもつフライワイヤーの登場により、それまでアッパーの補強に使用されていた革やTPUを重ね合わせる必要がなくなり、かつてない軽量化が実現されることになりました。
クッション面ではヒールズームエアに加え、前足部にルナロンを採用。ルナロンは高い衝撃吸収性能と反発性能に加え、耐久性を兼ね備えた当時の最新フォーム状クッション素材です。リアクトの登場によりいつの間にかその名を聞くことは無くなりましたが、まるで月面を歩くような感覚という触れ込みで推されていたテクノロジーです。
コービーを広告塔に据えたプロモーションと、未来的なデザインも話題に
広告塔となっていたのはコービーブライアント。彼が登場するとても有名なCMがこちら。
その後、この動画に登場するアストンマーティンの車の色を模したハイパーダンクも超数量限定で発売されています。
デザインは映画バックトゥザフューチャー2に登場する未来のスニーカー、エアマグから影響を受けています。
その後10年続くシリーズの第一作目ということで非常に完成度の高い一足のようです。初代以降のハイパーダンクも軒並み高評価で、毎年多くの選手に着用されています。2014年に発売されたものについては、初の日本人NBAプレーヤーである田臥勇太選手にも長く愛用されていました。
ZOOM KOBE IV (2008)
【ズームコービー4の主な特徴】
- ローカットシューズのトレンドを創った革命的バスケットボールシューズ
- ファイロンミッドソールのフォアにルナロン、ヒールにズームエアのセットアップ
- 初代ハイパーダンクを凌ぐ脅威の軽量性
ハイカットシューズが安全という幻想
コービー4は現在まで続くローカットバスケットボールシューズのトレンドを創り出した革命的バスケットボールシューズです。
見た目はそのままに、現代の機能を搭載したパフォーマンスレトロ(プロトロ)として2019年に復刻されており、若い世代の方にとっても見慣れたモデルなのではないかと思います。
今でこそ当たり前のように店頭に並ぶローカットのバッシュですが、オリジナルが発売された2008年当時はほとんどのプレーヤーが足首の怪我の不安感からローカットを敬遠し、ハイカットのシューズを着用していました。
この状況に物申したのはデザイナーではなく、NBAのトッププレーヤーであるコービーブライアントだったそうな。
彼の理論はこうです
「バスケのようにストップ&ダッシュがあり、かつ我々以上に足を使うサッカーのストライカーたちはむしろ好んで最小限のパーツで構成されたコンパクトなシューズを着用している。」
おそらくこの「ストライカー」というのはクリスティアーノロナウドであり、「シューズ」はナイキの最軽量スパイクのシリーズであるマーキュリアルを指していたのではないかと思います。
コービーのシューズに対するこだわり
ローカットであることに加え、コービーが依頼したのは「史上最軽量のバスケットボールシューズ」でした。当初、デザイナーのエリックエイバーは狼狽したそうですが、コービー本人のシューズに対する強い思いとフィードバックによってシューズの開発を進めることになります。
フライワイヤーの強靭なサポート性と、アウトソールつま先の外側に設けられた出っ張り(アウトリガー)により、ローカットシューズの機動性と安定性を高次元で融合することに成功します。
デザインにはコービーのニックネームでもあるブラックマンバのイメージに、コミックに登場する悪役の要素を加え、シューズを完成させました。こうして革新的軽量シューズとして登場した初代ハイパーダンクを凌ぐ超軽量ローカットバッシュが誕生しました。
エイバー曰く、コービーほどシューズの機能面に対して意見をするアスリートは多くないとしています。プロトロのコンセプトがコービー本人の意見により誕生した点からも並々ならぬこだわりが伺えますね。
ZOOM HYPERFUSE (2010)
【ズームハイパーフューズの主な特徴】
- 北京の過酷なアウトドアバスケットボールコートからインスパイアされた通気性と耐久性にフォーカスした3層構造のアッパー
- アッパーの縫い目を最小限に抑え、熱圧着で成形
- カラーリングの自由度が格段に向上
ナイキらしからぬ通気性が配慮された一足
シューズ内部が透けて見えるほどのメッシュをアッパーに多用したズームハイパーフューズです。
こういったメッシュを使ったアッパーは日本の高温多湿な環境に対応したアシックスのバスケットボールシューズが思い出されます。
ナイキ史上、ここまで通気性が配慮されたバスケットボールシューズは多くないと思います。北米の気候や、空調付きの体育館が当たり前にある環境だと日本ほど通気性にこだわる必要がないのかもしれません。
北京のタフなアウトドアコートからインスパイアされたアッパー構造
シューズ名はそのアッパー構造、「ハイパーフューズテクノロジー」からきています。通気性、サポート性、耐久性を備えた三層構造のアッパーは、従来の縫い付け構造を極限まで減らし、大部分を熱圧着で成形したテクノロジーです。
このアイデアはデザイナーのレオ・チャンが北京のアウトドアバスケットボールコートに視察に行った際に思いついたそう。
比較的日本に近い気候のそのコートでは、熱されたアスファルトの上をメッシュのランニングシューズでプレーする人、中にはトレッキングブーツを履いているプレーヤーもいます。
当然ながらシューズは激しく摩耗していたそうです。
上記のような、アメリカとは異なる環境にインスパイアされ、丈夫でサポート性があり、なおかつ通気性を確保したハイパーフューズテクノロジーを完成させました。
軽量で通気性に富んだアッパーは水虫の予防にも効果的だそうです(公式サイトに本当に書いてあります)。
ZOOM KD IV (2011)
【ズームKD4の主な特徴】
- ハイパーフューズテクノロジーを使った通気性、耐久性に優れたアッパー
- サポート性を高める中側部のストラップ
- デュラントの求めるライト&タイトを具現化
デュラントが求める機能性を愚直に再現した一足
ケビンデュラントの第4弾シグネイチャーモデルは先に紹介したズームハイパーフューズのデザイナーでもあるレオ・チャンが担当しています。彼は10作品に渡ってデュラントのシグネイチャーモデルを担当した人物です。
シューズ作成に当たってのデュラントからの要望は「ライト&タイト」。それと彼のパーソナリティを組み合わせてダイレクトに表現したモデルがこのズームKD4だそうです。
デュラントといえば、一時期はフライニットアッパーのリラックスしたフィットが好みで、ゲーム中に何度か靴が脱げるという時期もありましたが、当時はタイトなものを求めていたのですね。
ローカットのシルエットに加え、ハイパーフューズテクノロジーを用いて構成されたアッパーによって軽量化を実現。またタイトなフィット感を実現するため、土踏まずあたりから足首外側に伸びるアダプティブフィットストラップを装着。
当初、デュラントはストラップなしのシューズを求めていたそうですが、サンプルのデザインを見て考えが一転したそうです。また、レオ・チャンによると、デュラントの土踏まずはアーチが低いので、それをサポートする意味でも有用なストラップであるとのこと。
デザインは前作のKD3よりも低重心に設計されており、よりシャープな印象。クッショニングにはフォアフットズームエアが採用されています。
成長著しい時代を支えた人気作
デュラントはKD4を着用したシーズンに3度目のリーグ得点王、オールスターMVPを獲得。また、シーズン前の世界選手権ではゴールドメダルを獲得しています。年々成績を上げていくデュラントに伴って、シューズの人気も上昇。KD4はシリーズ屈指の人気作としても知られています。
HYPERDUNK+ 2012 (2012)
【ハイパーダンク+2012の主な特長】
- 新世代フライワイヤー、ハイパーフューズテクノロジー、ルナロンクッショニングを搭載した進化型ハイパーダンク
- エリックエイバー、レオ・チャン他、トップデザイナーが集結して設計を行った贅沢なモデル
- 通常バージョンに加え、NIKE+と連動させることでパフォーマンスを数値化することができるバージョンも発売
豪華デザイナー陣による全部載せハイパフォーマンスシューズ
ブログの最後を飾るのは、初代の誕生から4年後のロンドン五輪開催年に発表された進化型ハイパーダンクです。
初代ハイパーダンクに搭載されていた機能と、以降開発されたテクノロジーがふんだんに盛り込まれています。
デザインチームにはエリックエイバー、レオ・チャンといったリーダー級のデザイナーが招集されています。
ハイパーフューズアッパーに張り巡らされたフライワイヤーは、初代のように樹脂パネルに埋め込まれた状態ではなく、一本一本が足の動きに合わせて独立して可動できるように進化。動きの中で必要な個所へのサポートが行われるようになりました。
軽量、高反発のクッショニング素材、ルナロンについては前後分割で搭載。よりバスケットボールの動きに特化したチューニングにされており、本作で初めてメインのクッショニング素材として採用されています。その為、以前までのズームエアは搭載されていません。
フューズアッパーにフライワイヤー、さらにソールのクッション材もルナロンに統一することで軽量かつ高い機能性をもったバッシュとなっていました。
また、吐き口周りに立体的に配されたパディング、中足部の3Dカーボンファイバープレート、つま先外側のアウトリガー等で安定性を高めています。
しかしながらハイパーダンク2012の機能はこれだけに止まりません。
バッシュのデジタルデバイス化
このハイパーダンク2012は通常バージョンに加え、Sport pack (スポーツパック) と呼ばれる特別バージョンが存在していました(値段も通常版より高い)。このバージョンでは、iPhoneのアプリとシューズを接続することで、着用者のパフォーマンス(俊敏性、ジャンプ力等)を数値化することができる仕様となっています。
どういう仕組みかと申しますと、シューズのインソールの下に配された圧力センサーが感知したデータが、同じくインソールの下に格納されるチップに蓄積され、それがアプリ上で計算されて表示されるという仕組みになっています。
字面だけですと少々わかりにくいので、下記動画でその雰囲気を感じ取っていただければと思います。
バッシュでありながら、ガジェット的進化を遂げたかつてないシューズの誕生となりました。
まとめ 現在のバッシュに繋がる機能とITとの連動
今回は2008年から2012年のバスケットボールシューズの変遷に触れてきました。色々と調べながら執筆した感想としては、この時代のテクノロジーや取り組みが現在のシューズにもつながっているのだな、ということです。
フライワイヤーの誕生は2008年と10年以上も前のことになります。時代とともに少しずつ進化を遂げてはいるものの、今でもナイキのバスケットボールシューズに欠かせないテクノロジーです。
ルナロンはその姿を変え、更に高機能なクッション素材であるリアクトフォームとなってエアに次ぐ第二のクッション素材としての立ち位置を確立しつつあります。
また、ハイパーダンク2012にもつながるNIKE+の取り組みはスニーカーとITのコラボレーションの先駆けであり、現在のアダプトテクノロジー(自動で靴と足をフィットさせる技術)の礎になっているように思います。
これで全4回のシリーズは終了となりますが、NIKE NEWSにはまだまだおもしろそうな記事がたくさんありましたので、また気が向いたら別のテーマで解説記事を書かせていただこうと思います。
コービー・ブライアントが現役時代に着用していたシューズについてまとめた記事は下記リンクからどうぞ。
最後までお読みいただいた皆様、ありがとうございました。
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