足を鍛えるために誕生したスニーカー、NIKE FREEの革新性と2019年版の原点回帰について。

足を鍛えるために誕生したスニーカー、NIKE FREEの革新性と2019年版の原点回帰について。

画像引用元:news.nike.com

こんにちは。壮年留学生です。

本日は、ナイキのランニングシューズに搭載されるテクノロジーの中でも少々異質な存在である「ナイキ フリー」について深堀りしてみました。

この記事を読み終わる頃にはナイキフリーが履きたくなること請け合いです。

着用者を怪我から守り、着用者のパフォーマンスをサポートすることが一般的なシューズの役割

日常的にランニングに取り組んでいる方にとって、シューズ選びは非常に重要なものかと思います。自分の走力や足形に合わせてシューズを選ぶことは、怪我の発生を抑えてくれます。また、スタイリッシュなデザインや、日々のワークアウトを快適にしてくれることからモチベーションの向上にも効果があるように思えます。

たとえば、ナイキが誇る技術であるエアやリアクトといったクッション素材は足を衝撃から守りつつ、その反発力で次の一歩を踏み出すサポートをしてくれます

そこにフライニット等の足当たりの良いアッパーが組み合わさったシューズは、その履き心地の良さからランニングはもとより、日常使い用シューズとしも快適な着用感を提供してくれます

ナイキフリーが目指したこと

2004年発表の初代FreeことFree 5.0
画像引用元:news.nike.com

その一方で、ナイキフリーは最小限のクッショニングとサポート性能で足がもつ本来の機能を呼び覚まし、その能力を高めることにフォーカスしたシューズです。このコンセプトは、ナイキフリー以外のシューズでは鍛えられない筋肉を使わせることにより、着用者の足への負荷が高まることを意味しています

そのアイデアが生まれたきっかけは2001年にまで遡ります。

デザイナーであるトビー・ハットフィールド(ティンカー・ハットフィールドの弟)を含むナイキの開発チームがスタンフォード大学の陸上競技部の練習を視察していたときのこと。その日の練習はトラックやアスファルトではなく、同大学のゴルフコースの芝生の上で行われていました。

普段と違ったのは練習場所だけではありません。芝生の上の選手全員が素足だったのです。この練習方法について同大学のコーチに伺うと、裸足でのトレーニングにより足が強化され、選手のパフォーマンスが向上するということでした。

何人ものオリンピック出場選手を輩出してきた名門校のこのトレーニング方法は、ナイキフリーの開発を大きく前進させることになります

スタンフォード大学視察の翌年、開発チームは素足トレーニング時の足首、膝、腰、足の指先に至るあらゆる部位の分析を開始しました。足裏の圧力マッピングや、モーションキャプチャーといった最先端技術を使い、徹底的に調査を行いました。

その結果、素足トレーニングで使われている筋肉の情報と、この練習の効果を科学的根拠を以って確認することができました。

素足トレーニングの効果を再現するためのかつてない柔軟性をもったソール

前述の分析結果を受け、開発チームは素足トレーニングの効果を安全に享受するためのシューズの開発をスタートします。

「素足トレーニングの効果を再現するシューズの最重要ポイントはソールの構造にある」と、トビー・ハットフィールドは言います。ナイキフリーに搭載されるソールは、裸足と同様のしなやかさを得るため、ソール全面に縦横複数の溝を入れてかつてない屈曲性を確保しています。

これによってシューズによる動作のサポートを限りなくゼロにし、着用者の筋肉を使わざるを得ない状況を創り出します

また、シューズの踵側とつま先側の高低差を減らすことで、シューズを履いていながら素足で走ったときに近い動作を生み出すことに成功しました。近頃のランニングシューズでも語られる「ドロップ」の考え方ですね。

そうして完成されたのがこちらのソール。初代Free 5.0に搭載されました。
画像引用元:news.nike.com

余談ですが、このソールのデザインは家庭用の製氷トレイや木製のくねくね曲がる蛇のおもちゃの柔軟な動きを参考につくられました。デザインにあたり、開発チームがシューズのソールにカッターナイフを使って複数の溝を入れて着用したところ、全く異なる感覚が得られたそうです。

下記動画を見ていただくと開発の様子が理解しやすいかと思われます。

動画内でトビー・ハットフィールドとエリック・エイバーがナイキフリーの誕生について語ってくれています。2019年モデル発売時に公開されたものです。

確かな効果でトップアスリートのトレーニングシューズに採用

完成したナイキフリーのサンプルのテスト行ったところ、一般的なランニングシューズを履いたときと比べて着用者の足の各部位の筋力、安定性、そして柔軟性の向上が見られました

2004年に製品版のフリー5.0が発表されると、ストイックなランナーを中心に瞬く間に人気シューズになりました。その完成度はトップアスリートの支持をも集めます。かつて女子マラソン世界記録保持者であったポーラ・ラドクリフや女子短距離の五輪メダリストであるアリソン・フェリックス等が練習で着用していたことを表明しています。

アリソン・フェリックス等がトレーニングで着用していたことを表明しています
画像引用元:news.nike.com

一般向け市場にも受け入れられ、以降様々なバリエーションが発売

かつてないコンセプトで誕生したナイキフリーは、巧みなプロモーションも相まって市場の支持を獲得します。フリー5.0の特徴故、初心者ランナー向けではなく、また、鍛えているランナーであっても「5km以下のトレーニングの使用」がメーカーから推奨されていました。このコンセプトは最新モデルにも引き継がれています。

眠った筋肉を呼び覚ます」のような中二病的なメッセージに当時10代だった私も非常に魅了されたことを思い出します。

「フリー5.0」という名前で誕生したナイキフリーシリーズ。名前に冠した数字、「5.0」は裸足を0、一般的なランニングシューズを10とした場合の着用感の目安を表したものです。後に「3.0」、「7.0」も同シリーズ内で発売されています。

初代FREE5.0には5.0と書かれたインソールに加えて4.5というものも付属していました。
画像引用元:news.nike.com

私は大学生時代はショッピングセンター内にあるファミリー向けの靴店にてバイトをしていたのですが、そこでもフリーシリーズの人気は高かったように思います。

フリーを手に取られるお客様はその軽量性とかつてない屈曲性に驚かれていました。

正直、初代フリー5.0については履き口、靴内部ともに作りがタイトで、お客様へのフィッティングが難しかったです。しかしながら第二世代のフリー5.0V2以降はその問題点が解消され、より多くの人に履いてもらえる仕様に改善されています。

私物の初代フリー5.0のアトモス提案カラーです。作りは非常に小さく、マイサイズから1cm~1.5cm上のサイズを購入した気がします。かかと部のピンク色の生地は耐久性が低く、破れた状態で着用されている人を見かけることがありました。
撮影:筆者

また、初代発売以降はクロストレーニング向けのモデルや、アッパーにエアウーヴンのそれを採用したカジュアル層を意識したデザインのものも発表されていきます。

中でもズームエアが搭載され、クッション性と安定性が強化されたフリーエブリデイというモデルについては「最早フリーじゃないじゃん」というツッコミを入れずにはいられませんでした。

こちらがフリーエブリデイ。当初のコンセプトを忘れてしまうほどに様々なバリエーションが発売されており、当時のナイキフリーシリーズの市場での支持率の高さが伺えます。
画像引用元:shoeguide.run

ストイックな素足トレーニングからインスパイアされ、元々は商業的な展開は予定していなかったナイキフリーでしたが、その革新性と様々なバリエーションで競技者でない人も含めた多くのファンを獲得していきました

ソール構造を刷新し、当時のコンセプトに回帰した2019年のナイキフリー

2019年に発売されたフリーラン5.0
画像引用元:news.nike.com

2019年に発売されたフリーラン5.0では、ソール構造の大幅な見直しが行われています。比較的ソフトで大衆受けしそうな履き心地のソールだった前作までに対し、2019年版では初代を彷彿とさせる固く、ストイックに素足感覚を追求した硬度のソールに仕上がっています。

ちなみに5.0や7.0といった数字は2016年発売以降のフリーシリーズには使われてきませんでしたが、2019年モデルから復活しています。こういうところからも原点回帰の想いを感じずにはいられません。

2004年に発売された初代と比べて曲線的になった切り込みがより細かく刻まれています。
画像引用元:news.nike.com

ソールに刻まれた溝は初代に比べてより細かく曲線的になっています。ランニング時の足裏の動きや圧力分布を基に溝の深さや角度を調節し、より裸足に近い自然な着地と蹴り出しを可能にしています。

足裏の凹凸までも意識した2019年版のソール底面のイメージ
画像引用元:news.nike.com

また、先に紹介している初代ナイキフリーや2018年版以前のモデルでは比較的フラットなソール底面だったのに対し、2019年版では人間の足裏の凸凹を踏襲したような形状になっています。

こちらは2018年版フリーランのアウトソール。六角形に溝がデザインされたフラットな形状。
画像引用元:mec.ca

解剖学に基づいてデザインされた曲線が美しい2019年版のソール
画像引用元:news.nike.com

2004年当時のコンセプトを15年の時を経て忠実に踏襲した2019年版フリーラン5.0は、初代フリー5.0の正当な進化系モデルと言えるのではないでしょうか。過去のモデルから大幅に変更されたソールはそのまま2020年発売の最新モデルにも引き継がれています。

ナイキフリーはビル・バウワーマンが提唱したナチュラルモーションの延長線上に存在している

ナイキフリーの誕生にあたり、スタンフォード大学の陸上部の視察が大きな影響力をもっていたのは間違いありません。しかし、近いコンセプトはナイキの靴づくりに長きに渡って横たわっていたそうです。

オレゴン大学陸上競技部の監督であり、ナイキの共同創設者でもあったビル・バウワーマンは、人間が生まれながらに持つ機能的な動き(ナチュラルモーション)を妨げないシューズ作りを心掛けていたとのこと。彼は、軽量でシンプルに必要な機能を搭載したシューズを常に理想としていました。(彼が軽量性を求め続けたことはエアハイパーフライトの開発背景からも伺えます)

1986年に登場したソックレーサーは、素足での着用を前提として開発されたランニングシューズでした。ワンピースアッパーに配された2本のベルトを使ってフィット感を調節する仕様です。
画像引用元:news.nike.com

ストリートでも人気を博したエアリフトは1995年の発売。足が持っている推進力を高めるため、親指とその他4本の指を分割する足袋のようなデザインが特徴的。エアリフトのデザインは、何を隠そう当時のマラソンのトップ選手達が素足でトレーニングを行っていたことからインスパイアされています。
画像引用元:news.nike.com

エアプレストは、90年代のデコラティブで過度なサポート性能をもったランニングシューズに反発する形で2000年にデザインされたシューズです。伸縮性の高いネオプレーン素材を使ったルーズなアッパーに、必要最小限の樹脂製パーツを用いてサポート性を確保しています。伸縮性の高いアッパー素材によって可能になったS、M、LというTシャツのような斬新なサイズ展開と、シンプルなデザインでストリートで爆発的な人気となりました。
画像引用元:news.nike.com

2000年発売のエアプレストの大ヒットを受け、デザイナーであるトビー・ハットフィールドに「なぜエアプレスト2を製作しないのか?」という質問がしばしば寄せられました。彼によるとそれは既に製作されていて、ナイキフリーがエアプレスト2にあたるのだとか。

我々からするとエアプレストとナイキフリーは別物のように思えていましたが、デザイナー本人の意思としてはそれらは同じ系譜に連なっているみたいです。

まとめ ストイックに鍛えたい方に向けたスニーカー

一時はおしゃれな方々が初代フリー5.0を履いているのを見かけたのですが、最近のモデルはストリートでの支持率はあまり高くないようで、街中で見ることがめっきり少なくなりました。実際、2004年版のフリー5.0は気の利いたカラーリングや、ブランドとのコラボレーションモデルも発売されていたと記憶しています。

比較的ボリューミーなスニーカーが人気な現在のトレンドに対し、ナイキフリーのコンパクトなデザインはあまりマッチしないのかもしれませんね。

とは言え、ナイキフリーは他にはない際立ったコンセプトを持った素晴らしいスニーカーであることは間違いありません。新型のフリーラン5.0はおしゃれか否かというぬるい議論はお構いなしに、ストイックにワークアウトに励む方に向けたスニーカーと言えるのではないでしょうか。

2019年版がセール価格で購入できる今が買い時のように思います。私も検討中なのですが、日本とこちらの価格差がけっこうあるので、購入を躊躇しています。


もし購入したらパフォーマンスレビュー記事としてこのブログで紹介させていただこうと思います。

最後までお読みいただいた皆様、ありがとうございました。